第2回:中国特許の調査・翻訳のあり方

第2回:中国特許の調査・翻訳のあり方

特許調査には以下に述べるようなさまざまな目的がある。

● 恒常的な調査
◇技術動向調査:自社が保有する、または、開発している技術に関わる技術動向を調査する。
◇権利侵害予防調査:自社が他社の権利を侵害していないか、他社が自社の権利を侵害していないか、などを調査する。
◇公知例調査:他社の権利を無効化するための公知例を調査する。

 

● 非恒常的な調査
◇特許マップ作成・解析調査:開発プロジェクトを開始する前に、自社がどの領域の技術で事業展開するかを決めるための特許マップを作成するために調査する。
◇特許出願前調査:出願する特許のクレームが既に公知になっていないか調査する。

 

 自社の知的財産部に調査担当をアサインし、特許調査ツールを活用して恒常的に調査をしている企業もあれば、特許出願の際だけ特許調査会社などに委託して非恒常的に調査をしている企業もあり、企業によって調査のあり方はさまざまである。日本企業が中国特許を調査する際は、特許言語は英語に統一し中国語を英語に翻訳して分析する企業もあるが、最近は、中国特許の量が急激に増えてきたことによって、中国語を、英語ではなく日本語に翻訳して分析する企業が増えてきた。
中国特許調査においては「検索」→「検索結果の精査」のサイクルを繰り返す。この時に中国語特有のさまざまな課題があるが、大きな課題の一つに「検索漏れ」がある。日本語も中国語も漢字を使うが、同じ漢字でも、中国語の表記方法が数多く存在したり、中国語の表記が統一されていないためにどの表記を使えばいいかわからないなどといったことがある。それに加え、検索の際の「検索式」の作成はノウハウや経験が必要であるため、「検索漏れ」を回避するためのノウハウ・経験を蓄積していくことは自社の競争力の強化にもなる。
検索結果の精査の際には、機械翻訳ツールのもつ辞書機能が威力を発揮する。複数の訳語や、あり得る中国語表記をすべて辞書に登録し、新たな中国語表記が見つかった場合には都度新たに辞書登録する。機械翻訳のもつ辞書機能には実はさまざまな活用方法があり、機械翻訳ツールを熱心に活用している企業では、自社でアップデートしている辞書をブラックボックス化してそれを競争力の源泉にしている。
特許出願の際の日本語から中国語への翻訳では、ほぼ全ての企業が人力で翻訳を行うが、実はここにも落とし穴がある。100%の翻訳精度を前提に人力で翻訳するが、人力であるが故のミスによる翻訳の抜け漏れがある場合があり、中国で出願した特許に重要なクレームが抜けていたという事例も時折聞かれる。このクレームがクリティカルなものであると被害額のポテンシャルは膨大になるため、ミスが起こらない仕組みを作ることが重要である。それには、翻訳会社と翻訳者の選定基準を明確にすることに加え、追加コストがかかることになるが、選定基準を満たす翻訳者による中国語から日本語への「リバース翻訳」を特許出願のプロセスの中に恒常化することをお勧めする。

執筆者: 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆